口腔機能低下症セルフチェック~食べこぼし、飲み込みにくい…早期発見が重要~
菅野 岳志 院長
「最近、食事のときにポロポロこぼれることが増えた」
「お茶やお味噌汁を飲んだとき、前よりむせやすくなった」
「硬いものを食べることを、避けるようになってしまった」
こうした感覚は、多くの方が日常の中でふと感じるものです。
けれども、「年齢のせいかな」と思って、そのままにしてしまうことも少なくありません。
じつはこうした小さな違和感が、口腔機能低下症の初期にみられることがあります。
口腔機能低下症とは、噛む、飲み込む、話すといったお口の機能が、気づかないうちに少しずつ衰えていく状態を指します。
進行はゆるやかで、強い痛みなどのわかりやすい症状が出にくいため、ご本人が変化に気づきにくいのが特徴です。
けれども、お口の機能は食事や会話、社会とのつながりを支える大切な役割を担っています。
そのため、早い段階で変化に気づき、確認し、対応することがとても重要です。
そこで今回は、早期発見のための「口腔機能低下症セルフチェック」の方法や対策について解説します。

岩手県立大船渡高等学校
日本大学松戸歯学部
日本大学松戸歯学部附属病院臨床研修医修了
日本大学大学院松戸歯学部歯学研究科組織学専攻修了
医院名:かんのデンタルオフィス
所在地: 〒192-0073
東京都八王子市寺町46 ラグゼナ八王子寺町 1F
口腔機能低下症は早期発見が重要です

口腔機能低下症は、早めに気づくことで進行を抑えやすい状態です。
ある日突然、噛めなくなったり飲み込めなくなったりするわけではないのです。
早期発見につなげるチェックポイント
多くの場合、日常生活の中でささやかな違和感を覚えることから始まります。
▪噛むのに以前より時間がかかるようになった
▪硬いものを自然と避けるようになった
▪会話の途中で舌がもつれる感じがする
こうした変化が少しずつ積み重なっていくのです。
この段階でお口の状態を確認し、ケアを行えば、生活への影響を最小限に抑えられる可能性があります。
早期発見の違和感を見逃すと、どうなる?
一方で、小さな変化を見過ごしてしまい、口腔機能が低下すると、食事や会話が負担に感じられるようになり、人と関わること自体に気後れを感じる場面が増えていきます。
外出や外食を控えるようになり、次第に社会とのつながりが少なくなることもあります。
さらに、お口周りの筋肉の力や動きが弱くなると、表情が乏しく見えたり、話しにくさを感じたりすることがあり、言葉によるやりとりだけでなく、表情やしぐさといった言葉を使わないコミュニケーションにも影響が及ぶのです。
その結果、人との関係を保つことが難しくなり、閉じこもりがちになったり、買い物や交通機関の利用など日常的な活動が減ったりすることに。
こうした生活の変化が重なっていくことで心身の活動量が低下し、寝たきりや認知機能の低下リスクが高まると考えられています。
口腔機能低下症とはどのような状態なの?

お口には、噛む力、飲み込む力、舌や唇を動かす力、唾液を分泌する力など、さまざまな機能があります。
口腔機能低下症では、これらの機能が一つだけでなく、いくつか同時に低下していくのが特徴です。
▪お口の中が乾きやすくなる
▪食べ物がお口の中に残りやすくなる
▪噛む力が弱くなる
▪飲み込むときにむせやすくなる
▪滑舌が悪くなったと感じる
こうした変化が重なり、食事や会話が少しずつ負担になっていきます。
ご本人は「まだ大丈夫」「そこまで困っていない」と感じていることも多く、受診のきっかけを逃しやすい点も特徴です。
まずは確認してみましょう|口腔機能低下症セルフチェック

次の項目について、最近あてはまるものがないか確認してみましょう。
✔食べ物が口の中に残りやすくなった
✔硬いものが食べにくくなった
✔食事にかかる時間が以前より長くなった
✔食事中や飲み物を飲んだときにむせることがある
✔薬を飲み込みにくいと感じることがある
✔口の中が乾きやすいと感じる
✔食べこぼしが増えた
✔滑舌が悪くなったと感じる
✔口の中が汚れやすい、ねばつきやすいと感じる
これらの項目に複数あてはまる場合、口腔機能が低下し始めている可能性があります。
ただし、セルフチェックはあくまで目安であり、これで診断を行えるわけではありません。
気になる変化がある場合は、歯科医院でお口の状態を確認することが大切です。
なぜお口の機能低下が全身に影響するの?

お口は、身体に栄養を取り込むための入口です。
噛む力や飲み込む力が低下すると、まず食事の内容に変化が起こります。
硬い肉や魚を噛むのが大変になり、避けるようになる、繊維の多い野菜を食べにくく感じるようになる……その結果、噛まずに食べやすいパンや麺類、やわらかい食品が中心の食事になります。
実際に、口腔機能が低下したシニア世代の方は、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、食物繊維の摂取量が減少しやすく、その一方で、炭水化物や糖質、塩分の摂取割合が高くなる傾向があるという調査結果があります。
たんぱく質は筋肉や内臓、免疫機能を保つために欠かせない栄養素です。
不足すると筋力が低下し、歩く速度が遅くなったり、立ち上がる動作が大変になったりするのです。
転倒リスクが高くなり、ケガをすると生活の自立度に大きく影響する恐れもあります。
参考:厚生労働省|健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~「口腔機能の健康への影響‐口腔機能の低下と栄養‐」 >
口腔機能が低下すると要介護状態になるリスクが2倍に?

日本のシニア世代の方2000人を対象に行われた大規模調査では、お口の機能が低下している「オーラルフレイル」の方と、そうでない方を比較しています。
その結果、口腔機能が低下している方では、体力の低下や要介護状態になる割合などが、約2倍高いことが明らかになりました。
参考:厚生労働省|健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~「口腔機能の健康への影響口腔機能の低下と寝たきり‐認知機能の低下の関係‐」 >
この結果は、口腔機能が低下すると必ず介護が必要になるという意味ではありません。
身体の衰えが目立つ前の段階で、お口の機能低下が起きている方が多いことを示しています。
つまり、お口の変化は将来の健康状態を考えるための早めのサインと捉えることができます。
口腔機能低下症は、誰にでも起こりうる身近な変化です。
食べこぼしやむせ、噛みにくさは、身体が教えてくれる「サイン」かもしれません。
セルフチェックで気づいた違和感や小さな変化をきっかけに、早めに受診し、お口の健康状態を確認することが大切です。
歯科医院で確認できる口腔機能の変化とは

セルフチェックで気になる点があった場合、歯科医院ではお口の状態をより詳しく確認することができます。
歯科医院で行われるチェックリスト
歯科医院では、次のような点を組み合わせて確認します。
▪噛み合わせのバランス
▪舌や唇の動き
▪唾液の分泌量
▪食べ物が残りやすい部位
▪入れ歯や被せ物の適合状態
これらを総合的に見ることで、現在の口腔機能の状態を把握します。
口腔機能低下症は、歯の本数だけで判断できるものではありません。
噛み合わせのバランス、舌や唇の動き、唾液の分泌量、食べ物が口の中に残りやすくなっていないかなど、複数の要素を総合的に見ていきます。
ご家族の変化が気になったら早めにご相談を
噛む力が弱くなると、無意識のうちに噛まずに飲み込みやすい食事に偏ることがあります。
舌の動きが鈍くなると、食べこぼしや発音のしにくさにつながる場合があります。
こうした変化はご本人が自覚しにくいことも多いため、第三者がチェックすることが重要です。
ご家族のいつもと違う変化が気になったときも、ぜひお早めにご相談ください。
歯科医院では、お一人お一人の生活背景やお困りのことについておうかがいし、現在の口腔機能の状態を丁寧に確認します。
ご自宅でできる口腔機能低下を予防する方法

歯科医院でのチェックやケアとあわせて、自宅での取り組みも口腔機能の維持には欠かせません。
日常生活でお口の機能を低下させない工夫
日常生活では、次のような工夫が口腔機能の維持につながります。
▪一口ごとにしっかり噛むことを意識する
▪無理のない範囲で噛みごたえのある食材を取り入れる
▪たんぱく質を意識して食事に取り入れる
▪水分をこまめにとる
▪口を動かす機会を意識的に増やす
特別なことではなく、毎日の習慣の積み重ねが大切です。
食事では、できるだけ噛む回数を意識することが大切です。
やわらかいものだけに偏らず、無理のない範囲で噛みごたえのある食材を取り入れることがポイントになります。
「たんぱく質」の不足に要注意
シニア世代の方は、たんぱく質の摂取量が不足しやすいのが特徴です。

健康のために食事量を控えめにしたり品目が偏ったりすることで、必要な栄養素が不足する状態(いわゆる「新型栄養失調」)につながることがあります。
たんぱく質は、
▪筋肉量の維持
▪免疫機能の維持
これらにも関わる重要な栄養素です。栄養バランスのよい食事を1日3回、規則正しく摂りましょう。
さらに、水分摂取が少ないとお口の中が乾燥し、飲み込みにくさにつながることもあります。
こまめな水分補給も、口腔機能を支える大切な習慣の一つです。
専門の医療機関との連携が必要な場合

一般歯科での対応だけでは改善が難しい場合や、飲み込む機能である嚥下(えんげ)機能に強い不安がある場合には、専門的な医療機関と連携した対応が可能です。
嚥下機能に関する詳しい検査や、専門的なリハビリが必要と判断されることもあります。
その際も、最初に変化に気づく場として、身近なかかりつけの歯科医院が重要な役割を担います。
お一人お一人の状態に応じて、適切な医療につなげていきますので、まずは定期的にかかりつけの歯科医院でお口のチェックを受けることが大切です。
食べこぼしや飲み込みにくさが気になったら早めに受診を

当院では、むし歯や歯周病の治療だけでなく、お口の機能を長く保つことを大切にしています。
小さな変化を見逃さず、お一人お一人の生活やお悩みに寄り添いながら対応することを心がけています。
飲み込みにくい、食べこぼしが増えたように思う、むせやすくなった……そんなことに気づいたら、「年齢のせい」と思ってしまう前に、お口の状態を確認することが大切です。
セルフチェックで気になる点があった方は、どうぞお早めにご相談ください。
口腔機能低下症は、日常生活の中の小さな変化から始まります。
早めに気づき、確認し、対応することで、将来の健康につなげることができます。
セルフチェックをきっかけに、お口の状態を見直してみましょう。




